相続ニュース・コラム

【国税OBが語る】贈与税の基礎控除110万円は物価高騰に合わせて引き上げられる?

谷口裕之輔(税理士・元国税調査官)
お客様からのご質問

所得税の基礎控除はここ10年で38万円から62万円まで上がったと聞きました。

贈与税の基礎控除110万円も、今後は物価に合わせて引き上げられるのでしょうか?

とても鋭い着眼点ですね。

結論から申し上げますと、贈与税の基礎控除110万円が今後拡大される可能性は低いと考えています。

理由は2つありまして、

1つ目は、贈与税の基礎控除110万円が2001年(平成13年)から25年間、一度も変わっていないこと。

2つ目は、国が相続・贈与の一体化(基礎控除110万円の廃止)を最終ゴールとして見据えていることです。
(参考:政府税制調査会資料 https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen22kai6.pdf)

では、同じ「基礎控除」でありながら、なぜ所得税だけが引き上げられ、贈与税は据え置かれたままなのでしょうか。

この10年間の「所得税」と「贈与税・相続税」の動きを並べてみると、その理由がハッキリと見えてきます。順番に見ていきましょう。

①所得税の基礎控除は10年で38万円から62万円へ

まずは、所得税の基礎控除の変遷を整理してみましょう。

  • 2017年~2019年:38万円
  • 2020年~2024年:48万円
  • 2025年:58万円
  • 2026年~:62万円

10年で24万円、約1.6倍の増加です。
(※本則の金額です。所得に応じた上乗せ・縮小の仕組みは省略しています)

さらに2026年の改正からは、物価の上昇率に合わせて「2年に1回」基礎控除を自動で見直す仕組みも導入されました。

つまり所得税の基礎控除は、「物価と一緒に動く」制度に生まれ変わった訳ですね。

②贈与税の基礎控除110万円は25年間そのまま

一方で、贈与税の基礎控除の変遷は以下のとおりです。

  • 2001年:110万円
  • 2026年:110万円

25年間で、増加額は0円です。

しかも贈与税の110万円には、所得税のような物価連動の仕組みがありません。

物価が上がっている分、110万円の「実質的な価値」は、むしろ年々目減りしているとも言えます。

相続・贈与の世界は「縮小」の流れ

相続税・贈与税の世界に目を向けると、ここ10年は所得税とは真逆の流れになっています。

2015年:相続税の基礎控除が4割縮小

2015年に、相続税の基礎控除が4割縮小されました。

  • 改正前:5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
  • 改正後:3,000万円+600万円×法定相続人の数

2024年:生前贈与の足し戻し期間が3年から7年へ延長

2024年には、相続開始前の生前贈与を相続財産に足し戻す期間が、「3年」から「7年」へ延長されました。

2024年からの暦年贈与の改正内容については、以下の記事で詳しく解説しています。
「【相続・贈与の一体化】2024年から暦年贈与が大改悪!今後メインとなる生前贈与の手法はこれだ!」

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国は「財産の移転」に厳しくする方向へ

つまり国としては、「働く人の税負担」は軽くする一方で、「親から子・孫への財産の移転」には厳しくする方向に舵を切っているんですね。

その背景には、「親の財産の多い・少ないで、子や孫の世代に格差が引き継がれないようにしたい」という国の考えがあります。

冒頭でお伝えした「相続・贈与の一体化」も、まさにこの流れの延長線上にある話です。

③とはいえ、悲観しすぎる必要はありません

ここまで読まれて、「相続や贈与は、これから厳しくなる一方なのか…」と、少し暗い気持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、安心してください。

相続時精算課税に「年間110万円の基礎控除」が新設

2024年からは、相続時精算課税制度にも「年間110万円の基礎控除」が新設されました。

この110万円部分には、次の2つの特徴があります。

  • 贈与税の申告が不要です(制度を選択する年は届出書の提出が必要です)。
  • 将来の相続時にも、足し戻しの対象になりません。

つまり国は、締め付けを行う一方で、「新しい使える枠」もキチンと用意しているんですね。

相続時精算課税制度の仕組みや注意点については、こちらの記事をあわせてご覧ください。
「【完全保存版】2024年以降の相続時精算課税制度を徹底解説!押さえておくべき制度の概要&よく聞かれる質問7選」

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暦年贈与の110万円がすぐに廃止されるとは考えにくい

また、暦年贈与の110万円は、いまや多くのご家庭で当たり前のように活用されている制度です。

完全廃止ともなれば、国民からの大きな反発が予想されます。国としても慎重に進めざるを得ないはずです。

実際に廃止となるまでには、まだまだ時間がかかると私は見ています。

④税制が変わっても「知っている人」が得をする

税制は、これからも毎年のように変わっていきます。

ですが、どんなルールになっても、次の構図はいつの時代も変わりません。

  • 「知っている人」は、新しい枠を上手に活用する。
  • 「知らない人」だけが、損をしてしまう。

谷口税理士事務所では、税制がこの先どう変わっても「安心して使える生前対策」を、引き続きシッカリとお届けしていきます。

一緒に、ご家族の大切な財産を守っていきましょう。

ABOUT ME
谷口裕之輔
谷口裕之輔
相続専門の税理士/元国税調査官
税務調査官として45年にわたり相続税・贈与税の調査に従事。 退官後、姫路市で相続専門の税理士事務所の代表を務める。YouTube「相続専門チャンネル」(登録者17万人)でも情報を発信中。
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